毒性学的指数PDE, OEL, ADI, TDI, TTCについて
毒性学的指数として利用されている、PDE (Permitted Daily Exposure), OEL(Occupational Exposure Limit), ADI(Acceptable Daily Intake), TDI(Tolerable Daily Intake), TTC (Threshold of Toxicological Concern) 等の指数は、化学物質のリスク評価と管理において重要な役割を果たしており、人の健康を保護するために使用されます。
簡単にまとめると、ある物質が人体にどのくらい許容できるかの指数で、PDEは「1日あたりの許容量」、OELは「8時間あたり(労働環境)の許容量」、ADIは「食品添加物・農薬の1日あたりの許容量」、TDIは「汚染物質・不純物に対する1日あたりの許容量」、TTCは「毒性データがない場合でも適用できる統計的な基準(遺伝毒性など適用できないケースあり)」となります。
PDE:許容一日曝露量(Permitted Daily Exposure)【例:mg/day】
- PDE=NO(A)EL×体重調整/[F1×F2×F3×F4×F5]
- PDE=ADE(allowable daily exposure)※FDAはADE、PICSはPDEで意味は同じ
- PDE=OEL(μg/m3)×10 m3 (8時間に作業者により吸われる空気容量)
- 一日曝露許容量(PDE)は、ある人が一生涯毎日この投与量にあるいはそれ以下に曝露されても、副作用( adverse effect )の原因とならないであろうと考えられる各物質に固有な投与量を表すもの。
OEL:職業曝露限界(Occupational Exposure Limit)【例:µg/m3】
- ※OEL値=NOEL×BW(体重)/V(呼吸量) × SF1× SF2
- 作業者が 1 日当たり 8 時間にわたって作業 した場合に,ハザード物質の濃度がこの数値以下であれ ば,ほとんどすべての作業者に健康上の悪影響がみられな いと判断される限界の濃度.製造現場の空気中に浮遊しているハザード物質の許容量 は OELで示される.
- NOAL/NOAELが不明な場合…全化学物質に対して発がん性や毒性リスクが無視できると考えられるTTC:1.5 µg/dayを用いる(ICH—M7)。
NOAEL :無毒性量(No Observed Adverse Effect Level)【例:ppm, mg/kg/day】
- ある物質について何段階かの異なる投与量を用いて行われた反復毒性試験、生殖発生毒性試験等の毒性試験において、有害影響が認められなかった最大投与量。通常は、様々な動物試験において得られた個々の無毒性量の中で最も小さい値を、その物質の無毒性量とする。
LOAEL :最小毒性量(Lowest Observed Adverse Effect Level)【例:ppm, mg/kg/day】
- LOAEL は最小毒性量(lowest observed adverse effect level)のことで、ある物 質について何段階かの異なる投与量を用いて毒性試験を行ったとき、有害影響が認 められた最小の投与量である 4),6),11)。
- ある物質について何段階かの異なる投与量を用いて行われた反復毒性試験、生殖発生毒性試験等の毒性試験において、毒性学的な有害影響が認められた最小投与量のこと。
NOEL :無作用量(No Observed Effect Level) 【例:ppm, mg/kg/day】
- ある物質について何段階かの異なる投与量を用いて行われた反復毒性試験、生殖発生毒性試験等の毒性試験において、生物学的な影響を示さなかった最大投与量のこと。
LOEL:最小影響量(Lowest Observed Effect Level ) 【例:ppm, mg/kg/day】
- ある物質について何段階かの異なる投与量を用いて行われた反復毒性試験、生殖発生毒性試験等の安全性試験において、生物学的な影響が観察される最小投与量(濃度)のこと 。影響の中には有害影響と無害影響の両方が含まれるので、一般にはLOAELに等しいかそれより低い値である。
ADI : 1 日摂取許容量(Acceptable Daily Intake) 【例:mg/kg/日】
- ADI は 1 日摂取許容量(acceptable daily intake)のことで、ヒトがある物質を毎 日一生涯にわたって摂取し続けても、現在の科学的知見からみて健康への有害影響 がないと推定される一日当たりの摂取量である 4),5),6),10)。 意図的に使用されるものや、直接制御可能なもの(例:食品添加物、農薬)のリ スク評価指標として用いられ、動物実験または疫学研究から得られた POD(NOAEL など)を SF で除して得られる。ヒトが摂取することが前提とされているので、許容 できる(acceptable)と表現されている 6)。 非遺伝毒性発がん物質は、閾値があるので、非発がん物質と同様な取り扱いとな り、ADI を設定できると考えられている。遺伝毒性発がん物質については、現段階 においては、閾値が存在しないという考え方から、ADI は設定できないとする考え 方が主流となっている 8)。
TDI :耐容一日摂取量(Tolerable Daily Intake)【例:mg/kg/日】
- TDI は耐容一日摂取量(tolerable daily intake)のことで、ヒトがある物質を毎日一生涯にわたって摂取し続けても、健康への有害影響がないと推定される一日当たりの摂取量である 2),5),6),10)。非意図的に含有するもの(例:汚染物質)のリスク評価指標として用いられ、PODを UF で除して得られる。本来ヒトが暴露されることを許容しているわけではないので、耐容できる(tolelable)と表現されている 6)。非遺伝毒性発がん物質は、閾値があるので、非発がん物質と同様な取り扱いとなり、TDI を設定できると考えられている。発がん性に対する遺伝毒性の関与が不確実な場合は、発がん性に関する NOAEL(NOAEL が求められないときは BMD 法を考慮)をもとに TDI を算出する場合がある。しかし、遺伝毒性発がん物質については、現段階においては、閾値が存在しないという考え方から、TDI は設定できないとする考え方が主流となっている
- ADI(許容一日摂取量、Acceptable Daily Intakeの略)やRfD(参照(基準)用量、Reference Doseの略)も同じ意味で使用されます。
- ※ヒトに対する、この量以下では一生涯、毎日摂取(暴露)しても、病気などの悪い影響が出ない量のことで、動物実 験等で求められたNOAEL(無毒性量)をUFs(不確実係数積)※3で割ってヒトへの無毒性量に変換したものです。 通常、1日当たり、体重1kg当たりの化学物質の量で表します。(例:mg/kg/日)
- ※ADI = NOAEL ÷ 安全係数 (SF) SFは100
TTC:毒性学的懸念の閾値(Threshold of Toxicological Concern)
- TTCは、一生涯についてその物質に曝露されたとき、10万人の患者で1人について、更なるガンが発生するという、論理的なガン発生リスクに関連する遺伝毒性の不純物曝露レベルを表わす残存する原薬で汚染するかも知れない医薬品が、動物用医薬品である場合、同じ毒性学的懸念の閾値(;TTC)を使用するが、“体重1kg当たりベース(per kg bodyweight’ basis)” として表現すること(すなわち、TTCは0.03 μg/kgbw/dayとなる;訳注⇒1.5 μg/50 kg=0.03 μg/kg bw/day)。汚染した医薬品が食品製造用動物(foodproducing animals)に投与する場合には、適用されるキャリオーバー限度値は、対象とする動物の安全性の考慮および消費者の安全性への考慮の両方を考慮しなければならない。それゆえに、ワーストケースの曝露シナリオに基づき、対象とする動物あるいは顧客のいずれも、毒性学的懸念の閾値(Threshold of Toxicological Concern ;TTC)を超える残存する原薬レベルに曝露されていないこと。body weight:体重。
- SF/UF:安全係数/不確実係数(Safety Factor/Uncertainty Factor)
- ある物質について、一日摂取許容量(ADI)や耐容一日摂取量(TDI)等を設定する際、無毒性量(NOAEL)に対して、更に動物の種差や個体差、不確実性等を考慮し安全性を確保するために用いる係数のこと。無毒性量を安全係数(又は不確実係数)で除すことで一日摂取許容量や耐容一日摂取量を求める。SFはADIの、UFはTDIの算出に用いる用語であるが、それらの意味はほぼ同等と考えてよい。
動物実験のデータを用いてADIを求める場合、安全係数として100が一般に使われている。動物とヒトとの種差(感受性等)10、ヒトにおける個体差(年齢、性別、健康状態等の違い、妊娠の有無)10が割り当てられるのが最も一般的である。データの質(投与期間の不十分さ、毒性データの不十分さ、毒性の重篤性)により、2〜50の係数が追加されて用いられることもある。