FDAの医薬品承認の迅速審査の種類について

FDA(米国食品医薬品局)は、医薬品の承認プロセスを迅速化し、新しい治療法の開発と利用を促進するためにさまざまなプログラムを提供しています。具体的には、優秀な薬剤に対して承認申請前に「指定(お墨付きを与える)」を行うことで開発段階から承認までを効率的に行うことができるFast Track(ファストトラック)とBreakthrough Therapy(ブレイクスルーセラピー)があります。また、この他にもFDAの審査期間を短縮する制度として、Accelerated Approval(迅速承認)、Priority Review(優先審査)などもあります。以下にこれらの制度の主な違いを説明します。

Fast Track(ファストトラック):

  • 概要:Fast Track(ファストトラック)とは、重篤な疾患に対する治療薬やアンメットメディカルニーズ(未だ満足に治療法がない疾患)に対する薬剤を優先的に審査する制度のことで、優秀な薬剤(医薬品)をより早く患者に届けることを目的としています。
  • 条件:ファストトラック指定を受けたい薬剤が優れた有効性があること、重篤な副作用がないこと、早期診断により予後が改善されること、臨床的に重大な毒性を軽減できること、新たな公衆衛生上のニーズに対応する能力があるかなどが求められます。指定を受けるための審査は通常60日以内に行われます。
  • メリット:指定を受けた薬剤は、FDAとのより頻繁な会議やコミュニケーション、迅速承認と優先審査(以下参照)、全てのデータが揃う前に承認申請を行い五月雨式の審査(Rolling review)を受けることが可能です。
  • 審査期間:ファストトラック指定薬剤に対する標準審査期間は明確に規定されていません。プロジェクトごとに異なりますが、一般的には6ヶ月~10ヵ月となります。

Breakthrough Therapy(ブレイクスルーセラピー):

  • 概要:Breakthrough Therapy(ブレイクスルーセラピー)とは、既存治療を大きく上回る可能性のある薬剤を優先的に審査する制度のことで、優秀な薬剤(医薬品)をより早く患者に届けることを目的としています。
    Fast Trackと似ている制度ですが、Breakthrough Therapyでは指定を受けるための条件がより一層高くなっている一方、指摘を受けた際の恩恵も大きい制度と言えます。
  • 条件: ブレイクスルーセラピー指定を受けたい薬剤の臨床的に重要な評価項目が、既存の治療法と比較して大幅に改善したことを示す予備的な研究データを示す必要があります。例えば、既定のエンドポイントまたは代替エンドポイント(Surrogate Endpoint)に影響を与えるもの、臨床的に意味のある影響の可能性を強く示唆する薬物動態バイオマーカーへの影響、著しく改善された安全性プロファイル(たとえば、腫瘍治療薬の投与制限毒性が少ない)と同等の有効性の証拠などが挙げられています。
  • メリット:指定を受けた薬剤は、Fast Track指定で得られる恩恵を全て受けられるだけでなく、早い場合はフェーズ1からFDAサポートが入ること、さらに迅速承認に向けてFDAが組織的に協力・指導してくれる強力なサポートが受けられます。
  • 審査期間:ブレイクスルーセラピー指定薬剤に対する標準審査期間は明確に規定されていません。プロジェクトによって異なりますが、一般的には数ヶ月~10ヵ月となります。参考までに2021年のブレイクスルーセラピー指定を受けた薬剤の審査期間(中央値)は8.0ヶ月です。

Accelerated Approval(迅速承認):

  • 目的:迅速承認は、深刻な疾患で未治療の需要があり、既存の治療法よりも改善が期待される場合に適用される制度で、未治療の臨床上の需要に対して、新しい治療法を最低限の臨床データに基づき患者に早期提供することを可能とする制度です。
  • 条件:実際の臨床効果がまだ確認されていないが、治療法が中間的エンドポイントまたは代理エンドポイント(例:腫瘍の縮小)に基づいて臨床的利益が予測される場合に迅速承認が行われます。十分な臨床結果が得られていないケースであるため、迅速承認を受けた医薬品は通常、市販後臨床試験が続行されることがあります。市販後臨床試験の結果によっては承認が取り消される場合もあります。
  • 審査期間:審査期間は明確に規定されていません。参考までに2019年の迅速承認医薬品の審査期間(中央値)は5.7ヶ月です。

Priority Review(優先審査):

  • 目的: 優先審査は、新しい医薬品が重要で未治療の疾患を対象としており、臨床的に重要な治療効果が期待される場合に適用される制度で、通常の審査よりも優先的に審査することにより患者に早期提供することを可能とする制度です。
  • 条件: 対象となる疾患が重篤であり、患者にとって重要な医薬品や治療法である場合、既存の治療法が不足しており、患者にとって未治療の需要がある場合、患者の臨床結果に臨床的に重要な利益をもたらすことが期待される場合、迅速に患者に提供されることで臨床的な利益が期待される場合、既存の治療法に比べて明確な優位性が示されている場合等が挙げられます。
  • 審査期間: 標準審査期間は6か月と設定されています。